飲食店を開業しようとすると、「先に物件を決めるべきなのか」「融資を受けてから物件を契約するべきなのか」で迷う人は多いです。
物件が決まらないと家賃、保証金、席数、内装費、売上見込みが具体化しにくい一方で、融資の見込みがないまま物件契約を進めるのもリスクがあります。
この記事では、飲食店開業における物件探しと融資相談の進め方を、開業準備の流れに沿って解説します。
まず結論:物件候補をもとに融資相談を進めるのが基本
飲食店開業では、「物件を完全に契約してから融資を申し込む」のではなく、候補物件をもとに収支計画、必要資金、創業計画を整理し、融資相談と物件交渉を並行して進めるのが基本です。
ただし、物件がまったく未定のままだと、計画が抽象的になりやすいです。飲食店は物件条件によって家賃、初期費用、席数、客数見込み、内装費が大きく変わるためです。
実務上は、次のような流れで進めると整理しやすくなります。
| ステップ | やること | 目的 |
|---|---|---|
| 1 | 業態・エリア・資金の大枠を決める | 探す物件の条件を絞る |
| 2 | 物件候補を探す | 家賃・面積・席数・初期費用を具体化する |
| 3 | 候補物件ごとに収支を試算する | その物件で事業が成立するか確認する |
| 4 | 創業計画書・必要資金を整理する | 融資相談で説明できる状態にする |
| 5 | 公庫・金融機関へ相談する | 借入可能性や必要資料を確認する |
| 6 | 融資見込みを確認しながら物件契約へ進む | 契約リスクを下げる |
金融機関や不動産会社の実務、物件条件によって進め方は変わります。最終的には日本政策金融公庫、金融機関、不動産会社、専門家へ確認しながら進めましょう。
なぜ「物件が先か、融資が先か」で迷いやすいのか
迷いやすい理由は、物件と融資が互いに依存しているからです。
融資相談では、必要資金の根拠や売上計画、返済計画を説明する必要があります。しかし、飲食店では物件が決まらないと、必要資金や収支の前提が固まりにくくなります。
たとえば、同じカフェでも物件によって数字は大きく変わります。
- 家賃が月25万円か月45万円か
- 保証金が6か月分か10か月分か
- 面積が12坪か25坪か
- 席数が14席か32席か
- 居抜きかスケルトンか
- 厨房設備が使えるか、入れ替えが必要か
- 駅前か住宅街か、オフィス街か
一方で、融資見込みがないまま物件契約を急ぐと、家賃や保証金の負担が先に発生し、計画変更が難しくなることがあります。
そのため、「物件が先か、融資が先か」と二択で考えるよりも、「候補物件を使って数字を具体化し、融資相談と物件交渉を並行する」と考える方が現実的です。
飲食店開業で物件候補が重要になる理由
飲食店は、物件条件が事業計画に直結します。
物件候補があると、次の項目を具体的に検討できます。
| 物件条件 | 事業計画への影響 |
|---|---|
| 家賃 | 毎月の固定費、損益分岐点、必要売上に影響する |
| 保証金・礼金・仲介手数料 | 開業資金と借入希望額に影響する |
| 面積・席数 | 売上上限、客数、スタッフ数に影響する |
| 厨房・給排水・排気 | 内装費、工期、営業許可の取得しやすさに影響する |
| 立地・人通り・商圏 | 来店客数、販促方法、客単価に影響する |
| 居抜き・スケルトン | 初期費用と開業までの期間に影響する |
物件候補があると、融資相談時にも「なぜこの立地で、どのくらい売上が見込めるのか」「家賃に対して売上計画は妥当か」を説明しやすくなります。
逆に、物件条件が曖昧なままだと、必要資金や売上見込みも概算になりやすく、計画の説得力が弱くなります。
融資相談前に最低限整理しておきたいこと
融資相談に行く前に、完璧な計画を作り込む必要はありません。ただし、最低限の前提が整理されていると、相談が具体的になります。
次の項目は、事前にメモしておきましょう。
- 業態・コンセプト
- 開業予定エリア
- ターゲット客層
- 自己資金
- 借入希望額
- 候補物件の家賃、保証金、面積
- 居抜きかスケルトンか
- 内装・設備費の概算
- 想定客単価
- 1日の来店客数
- 営業日数
- 原価率
- 人件費
- 家賃比率
- 月間売上と営業利益の見込み
- 借入返済後の資金繰り
日本政策金融公庫では、創業予定者向けに創業計画書や記入例、セルフチェックなどの情報が公開されています。相談前に公式情報も確認しておくと、必要な観点を整理しやすくなります。
- 日本政策金融公庫「創業時支援」
- 日本政策金融公庫「創業計画書セルフチェック」
- 日本政策金融公庫「創業計画書 記入例(飲食店)」
物件契約前に必ず確認したい収支ポイント
候補物件が見つかったら、契約前に「その物件で本当に利益が残るか」を確認しましょう。
特に重要なのは、家賃だけで判断しないことです。家賃が安くても客数が見込めなければ売上が足りず、家賃が高くても十分な客数と客単価が見込めるなら成立する可能性があります。
契約前に確認したいポイントは次の通りです。
家賃は売上に対して高すぎないか
飲食店では、家賃は毎月必ず発生する固定費です。売上が下がっても家賃は基本的に下がらないため、家賃比率が高すぎる物件は慎重に判断する必要があります。
家賃比率は、次の式で確認できます。
家賃比率 = 月額家賃 ÷ 月間売上 × 100
家賃比率の目安は業態や立地によって異なります。詳しくは 飲食店の家賃比率の記事 も参考にしてください。
原価率・人件費率を考慮して利益が残るか
売上が大きく見えても、原価、人件費、家賃、光熱費、広告費、借入返済を差し引いた後に資金が残らなければ、経営は苦しくなります。
物件契約前には、少なくとも以下を月次で試算しましょう。
| 項目 | 確認内容 |
|---|---|
| 売上 | 客単価 × 客数 × 営業日数 |
| 原価 | 食材・ドリンク原価が売上に対して何%か |
| 人件費 | 社員・アルバイト・オーナー人件費 |
| 家賃 | 売上に対して過大ではないか |
| その他固定費 | 水道光熱費、通信費、広告費、保険料など |
| 借入返済 | 返済後に資金が残るか |
楽観的な売上見込みになっていないか
開業前の売上計画は、どうしても楽観的になりがちです。
候補物件を検討するときは、標準シナリオだけでなく、下振れシナリオも作りましょう。
- 平日の客数が想定より少ない場合
- 雨の日の来店が減る場合
- 開業直後の認知が広がらない場合
- 原価が上がった場合
- 採用がうまくいかず人件費が増える場合
「うまくいった場合」だけでなく、「想定より売上が低い場合でも返済と固定費を払えるか」を見ることが重要です。
おすすめの進め方:開業までの7ステップ
ここからは、物件探しと融資相談を含めた進め方を7ステップで整理します。
1. 業態・コンセプトを決める
まずは、どのような飲食店を開業するのかを決めます。
業態、ターゲット、価格帯、利用シーン、提供メニューが曖昧なままだと、物件探しも資金計画もぶれやすくなります。
たとえば、同じ「カフェ」でも、朝食需要を狙うのか、ランチ中心なのか、夜カフェなのかで必要な立地や席数は変わります。
2. 自己資金と借入可能額の目安を整理する
次に、自己資金と借入希望額の大枠を整理します。
この時点で融資額を断定する必要はありませんが、「自己資金はいくらあるのか」「不足分をどのくらい借りたいのか」「毎月いくら返済できそうか」は早めに考えておきましょう。
開業資金の考え方は 飲食店の資金調達・融資ガイド も参考になります。
3. 物件候補を探す
業態と資金の大枠が見えてきたら、物件候補を探します。
この段階では、いきなり契約を決めるのではなく、複数の候補を比較することが重要です。
確認したい項目は次の通りです。
- 家賃
- 保証金
- 面積
- 席数の想定
- 居抜き設備の状態
- 厨房、排気、給排水
- 視認性
- 周辺の客層
- 競合店
- 契約条件
4. 候補物件ごとに収支をシミュレーションする
候補物件が出てきたら、物件ごとに収支を試算します。
同じ業態でも、物件Aと物件Bでは家賃、席数、客数、初期費用が変わります。候補物件ごとに売上と費用を並べると、感覚ではなく数字で比較できます。
| 比較項目 | 物件A | 物件B |
|---|---|---|
| 月額家賃 | 例:25万円 | 例:38万円 |
| 想定席数 | 18席 | 30席 |
| 想定月商 | 例:250万円 | 例:360万円 |
| 初期費用 | 例:900万円 | 例:1,400万円 |
| 借入返済後の余力 | 要確認 | 要確認 |
5. 創業計画書・必要資金を整理する
候補物件を前提に、創業計画書と必要資金を整理します。
創業計画書では、事業内容、経営者の経験、商品・サービス、取引先、必要資金、資金調達方法、収支見込みなどを説明します。
飲食店の場合は、次のような情報があると計画に具体性が出ます。
- 候補物件の所在地・立地の特徴
- 家賃・保証金・契約条件
- 想定席数
- 客単価
- 回転数
- メニュー構成
- 原価率
- 人員計画
- 開業後の販促計画
創業計画書の書き方は 飲食店の事業計画書の書き方 も参考にしてください。
6. 公庫・金融機関へ相談する
創業計画書と必要資金のたたき台ができたら、日本政策金融公庫や金融機関へ相談します。
相談時には、物件契約の状況、見積書の有無、自己資金、事業経験、返済計画などを確認されることがあります。必要書類や進め方は金融機関によって異なるため、事前に確認しましょう。
この段階で重要なのは、「融資が必ず通る」と決めつけないことです。相談結果を踏まえて、借入額、物件条件、内装費、開業時期を見直す可能性もあります。
7. 融資見込みを確認しながら物件契約へ進む
融資相談の見込みや必要資料が見えてきたら、不動産会社と契約条件を確認しながら進めます。
可能であれば、融資の進捗と物件契約のタイミングを不動産会社にも共有し、契約期限や申込条件を確認しておきましょう。
最終的には、物件契約、融資申込、内装見積、保健所相談、開業スケジュールが連動します。頭の中だけで管理せず、タスクと期限に落とし込むことが大切です。
先に物件契約してしまうリスク
魅力的な物件を見つけると、「今決めないと他の人に取られるかもしれない」と焦ってしまうことがあります。
しかし、融資や収支の確認が不十分なまま契約すると、次のようなリスクがあります。
- 融資が希望額どおりに進まない
- 家賃や保証金の負担が先に発生する
- 内装費が想定より増える
- 保健所や消防の条件を満たすために追加工事が必要になる
- 計画変更が難しくなる
- 開業時点で手元資金が不足する
- 焦って条件の悪い物件を選んでしまう
もちろん、物件によっては契約判断を急がなければならない場面もあります。その場合でも、最低限の収支試算と融資相談の見通しを確認してから判断しましょう。
物件が未定のまま融資相談する場合の注意点
物件が完全に決まっていなくても、相談自体は可能な場合があります。早い段階で相談することで、必要資料や資金計画の考え方を確認できることもあります。
ただし、物件が未定のままだと、計画は概算になりやすいです。
そのため、物件が未定の場合でも、次のような仮条件を置いておくと相談しやすくなります。
- 開業予定エリア
- 想定家賃
- 想定面積
- 想定席数
- 居抜きかスケルトンか
- 初期費用の概算
- 客単価
- 1日の来店客数
- 月間売上の見込み
物件候補が出た段階で、創業計画書や収支計画を更新しましょう。
飲食店開業では「順番」より「判断基準」が重要
物件が先か、融資が先かだけを考えると、答えが出にくくなります。
本当に重要なのは、「その物件で事業が成立するか」を判断することです。
判断には、次の要素を一体で見る必要があります。
- 家賃
- 客単価
- 客数
- 原価
- 人件費
- その他固定費
- 初期費用
- 借入返済
- 手元資金
たとえば、家賃が安くても客数が見込めなければ売上が不足します。逆に、家賃が高くても席数や客単価、立地の強さによって成立する場合もあります。
「良さそうな物件だから契約する」のではなく、「数字で見ても成立しそうか」を確認してから進めることが、失敗リスクを下げるポイントです。
OpenKitchenで開業準備を整理する
OpenKitchenでは、飲食店開業に必要な準備を整理するための無料ツールを提供しています。
現在は、創業計画書作成ツールと飲食店開業チェックリストを利用できます。
- 無料で創業計画書のたたき台を作成
- Excel版・PDF版の飲食店開業チェックリストをダウンロード
- 開業予定日から逆算して、準備タスクの抜け漏れを確認
今後は、候補物件ごとの収支シミュレーション、立地診断、原価・人件費シミュレーション、融資相談時に使える補足資料レポート出力なども拡充予定です。
高額な開業コンサルに頼る前に、まずは自分の計画を数字とタスクで整理してみましょう。
よくある質問
飲食店開業は物件を決めてから融資を申し込むべきですか?
一般的には、物件を完全に契約してからではなく、候補物件をもとに収支計画や必要資金を整理し、融資相談と物件交渉を並行して進める方が現実的です。ただし、金融機関や物件条件によって進め方は異なるため、事前に確認しましょう。
物件が未定でも公庫に相談できますか?
物件が未定でも相談自体は可能な場合があります。ただし、家賃、面積、席数、内装費などが未定だと計画が概算になりやすいため、想定エリアや想定家賃、候補条件を整理しておくと相談しやすくなります。
物件契約前に融資の内諾はもらえますか?
金融機関や案件によって対応は異なります。「必ず内諾がもらえる」とは言えません。物件契約のタイミング、必要書類、融資審査の流れは、相談先の公庫・金融機関に確認しましょう。
物件候補がある場合、創業計画書には何を書けばよいですか?
候補物件の所在地、家賃、保証金、面積、想定席数、立地の特徴、内装費の概算、売上見込み、返済計画などを整理します。なぜその立地で売上が見込めるのか、家賃に対して収支が成り立つのかを説明できる状態にしておくことが重要です。
融資相談前に準備すべき資料は何ですか?
一般的には、創業計画書、本人確認資料、自己資金が分かる資料、見積書、物件資料、経歴が分かる資料などが必要になることがあります。必要資料は相談先によって異なるため、事前に確認しましょう。
家賃はいくらまでなら安全ですか?
一律に「何万円までなら安全」とは言えません。客単価、席数、回転数、営業日数、原価率、人件費率によって適正な家賃は変わります。家賃比率だけでなく、借入返済後に資金が残るかまで確認しましょう。
飲食店開業で失敗リスクを下げるために最初に確認すべきことは何ですか?
最初に確認すべきことは、コンセプトと数字の整合性です。誰に、いくらで、どのくらい売るのか。その売上で家賃、原価、人件費、返済を払えるのかを早めに確認しましょう。
まとめ
飲食店開業では、「物件が先か、融資が先か」と迷う人が多いですが、実務上は候補物件をもとに融資相談を進めるのが基本です。
物件がまったく未定だと計画が具体化しにくく、反対に融資見込みがないまま物件契約を進めるのもリスクがあります。
大切なのは、候補物件の家賃、初期費用、席数、客数見込みをもとに収支を試算し、その物件で事業が成立するかを確認することです。
開業準備では、創業計画書、融資相談、物件契約、内装見積、保健所相談などが同時に進みます。抜け漏れを防ぐためにも、チェックリストを使ってタスクと期限を整理しておきましょう。



