はじめに
飲食店経営において「最もコントロールが難しいコスト」は何でしょうか?
答えは 人件費 です。
原価はレシピを固めればある程度安定させられます。
家賃も契約すれば長期間変わりません。
しかし人件費は
- お客様の来店波動
- スタッフのスキル
- 突発的なシフト変更
- 仕込み量の変動
などの影響で毎日上下しやすく、
「気づいたらスタッフを入れすぎて赤字…」
という状況が頻発します。
そこで本記事では、飲食店の人件費を
“削る”ではなく “最適化する”
という観点で、専門的かつ実務的な方法を解説します。
1. 飲食店における適正人件費率とは?
まずは、人件費の理想値を把握しましょう。
◆ 業態別の人件費率の目安
| 業態 | 適正人件費率 |
|---|---|
| カフェ | 25〜30% |
| ラーメン店 | 25〜30% |
| 居酒屋 | 30〜35% |
| レストラン | 30〜38% |
| 高級店 | 40%前後 |
ポイントは、
“売上に比例して人件費率は上下する”
ということです。
◆ 売上が下がると人件費率は跳ね上がる
- 売上が100万円 → 人件費30万円(30%)
- 売上が80万円 → 人件費30万円(37.5%)
スタッフ数が同じでも、売上が落ちれば “自動的に” 悪化します。
だからこそ
「来店予測」と「シフト計画」が人件費改善の要」になるのです。
2. 人件費を悪化させる3つの要因
① 過剰シフト
最も多いのはこれです。
- 想定より来店が少なかった
- 忙しくなると思って多めに入れた
- キッチンの経験者が不足
- 雨で急に客足が鈍った
人件費のムダが一瞬で膨らみます。
② 仕込み量の読み違い
仕込みが多い → スタッフを増やす → 仕込み余り → 廃棄
という悪循環に陥ります。
仕込み量は
売上予測 × 使用量 × 在庫状況
で決める必要があります。
③ 店舗オペレーションの属人化
- あの人がいないと回らない
- 新人が多いと回転が落ちる
- キッチンの導線が悪くて人が必要
効率の悪いオペレーションは、人員過多を生みます。
3. 人件費を下げるための3つの戦略
戦略①:売上予測からシフトを作る
◆ 多くの店が“逆”の作り方をしている
一般的なシフト作成の流れは次の通りです:
- 手が空いているスタッフの希望を集める
- とりあえずシフトに入れてから調整する
- 結果、人件費が膨らむ
しかし、本来はこの順番が正しいです:
売上予測 → 必要人数の算定 → シフト作成
◆ 必要人数の算定式
必要人数の考え方は 「売上規模に対して何名いれば回るか」 という視点です。
必要人数 = 1時間あたりの売上 ÷ 1人の販売可能能力(売上)
例:
- 想定売上:40,000円 / 時間
- スタッフ1人の処理能力:20,000円 / 時間
→ 必要人数:2名
これを「各時間帯ごと」に計算することで、
シフトの適正が見えるようになります。
◆ AIによる予測の活用
週次・月次の来店波動をAIに予測させると
精度が大幅に改善します。
- 雨の日需要
- イベント日
- 給料日後の週末
- 季節要因
これらは手計算では追いきれません。
戦略②:仕込み量 × スタッフ数の最適化
仕込み量が多すぎると
- スタッフ数が増える
- 廃棄が増える
- 1日のオペレーションが重くなる
という悪影響がでます。
◆ 適正仕込み量の決め方
翌日予測売上 × メニュー別使用量 − 現在庫量
これを毎日行うことで
“仕込み人件費” が劇的に下がります。
◆ 「仕込みだけ多すぎ問題」の典型例
- ランチが強い店で夜も同量仕込む
- 新店舗で来店が読めず過剰仕込み
- 店長の不安から過剰仕込み癖が生まれる
データで仕込み量を管理することが重要です。
戦略③:店舗オペレーションの効率化
人件費を下げる最大の方法は
“人が要らない状態を作ること”
です。
◆ よくある改善例
- 動線改善でキッチンスタッフが1名減
- セミセルフレジでホールの負荷軽減
- 配膳ロボットでホールの人件費2割削減
- 盛り付け工程の可視化でムダ動作を削除
- 仕込み工程の標準化で時間短縮
◆ スタッフのスキルマップ管理
- できる作業
- 得意・不得意
- どの時間帯が強いか
これを可視化すると、
“最少人数で最大効率” が実現できます。
4. 人件費改善のためのシフト設計フロー
- 売上予測を出す
- 時間帯ごとの必要人数を計算
- スキルマップから配置を決める
- 仕込み量から追加人員の要否を判断
- シフトを確定し、1週間で改善点を振り返る
このPDCAを回すと
ムダなシフトが確実に消えます。
5. 人件費率を継続的に改善する仕組み
◆ 週次レビュー
- 人件費率
- 売上予測との乖離
- シフト過剰時間帯
- オペレーション不具合
→ 翌週の配置に反映
◆ 毎日の数値共有
- 売上速報
- 仕込み量
- 予約数
- 来店数
現場スタッフが数字に強くなると、
オペレーションが劇的に改善されます。
◆ システム活用
- 売上予測AI
- シフト自動生成AI
- スキルマップ管理
- 過去データの自動分析
人の判断だけでは限界があります。
7. よくある質問(FAQ)
Q1. 飲食店の人件費率はどれくらいが理想ですか?
結論:業態によって異なりますが、一般的には25〜35%が目安です。
業態別の例:
- カフェ:25〜30%
- ラーメン店:25〜30%
- 居酒屋:30〜35%
- レストラン:30〜38%
ポイントは、
“売上が下がると人件費率は自動的に悪化する” ため、
売上予測 × シフト設計が重要になります。
Q2. 人件費が高くなりすぎる最大の原因は何ですか?
結論:シフト過多と仕込み過多の2つが中心です。
よくある原因:
- 想定よりお客様が来なかった
- 忙しくなりそうで余分にシフトを入れた
- 仕込み量が多すぎて人員を増やしてしまう
- 動線が悪く、実質的に人が多く必要
人件費改善の本質は、
“必要人数を科学的に算出すること” にあります。
Q3. 売上予測はどうやって精度を上げればいいですか?
結論:売上を構成する“要素”を分解して蓄積することです。
予測に使えるデータ:
- 曜日別売上
- 天候(雨の日指数)
- 予約状況
- 過去の繁忙パターン
- イベントや給料日
AI予測を取り入れるとさらに精度が上がります。
特に雨の日需要や週末波動は手計算だと精度が出ません。
Q4. シフト人数を決める最適な方法は?
結論:1時間あたりの売上予測から“必要人数”を逆算する方法が最も再現性が高いです。
計算式: 必要人数 = 時間帯売上 ÷ スタッフ1人あたりの処理能力
例:
- 想定売上:40,000円/時間
- 1人当たりの処理能力:20,000円/時間
→ 必要人数:2名
これを時間帯ごとに計算していくと、
過剰シフトが減り、人件費が適正化します。
Q5. 仕込み量が多くて人件費が膨らみます。どう改善すべきですか?
結論:仕込み量は「予測売上×使用量−在庫」で決めると安定します。
失敗しがちな例:
- 昨日売れたから今日も多く仕込む
- 不安で多めに仕込み続けてしまう
- 仕込み担当の経験値に依存
改善方法:
- 明日の売上予測を前提に仕込み量を算定
- 人気メニューは仕込みを厚めに
- ロス発生時は理由を必ず記録する
仕込みの標準化 ができると、人件費のムダは一気に減ります。
Q6. 動線改善はどの程度、人件費に影響しますか?
結論:動線改善だけで“スタッフ1名減”が実現するケースもあります。
よくある動線トラブル:
- 冷蔵庫が遠すぎて歩数が多い
- 配膳ルートと下げ物ルートが被る
- POSが1台しかなく会計渋滞
- ドリンクステーションが遠い
改善すると:
- 移動時間が減る
- 作業効率が向上する
- 必要人数がそのまま1名減るケースも多い
最もコスパの良い人件費改善策です。
Q7. スタッフのスキル差で効率が変わってしまいます。どう管理すべきですか?
結論:スキルマップで“誰がどこまでできるか”を可視化してください。
例:
| 業務 | Aさん | Bさん | Cさん |
|---|---|---|---|
| 仕込み | ◎ | ◯ | △ |
| フロア接客 | ◎ | △ | ◎ |
| ドリンク作成 | ◯ | ◎ | △ |
メリット:
- シフト配置を最適化できる
- 育成ポイントが明確
- 店長の判断が安定
- 教育の抜け漏れ防止
属人化がなくなり、
店全体の安定感が増します。
Q8. 人件費削減とサービス品質は両立できますか?
結論:適正化すれば、むしろサービス品質は上がります。
理由:
- 忙しすぎる時間帯が減り、スタッフに余裕が生まれる
- 提供スピードが安定する
- ホールとキッチンの連携がよくなる
- クレームが減る
- お客様の満足度が向上
削減ではなく “最適化” にすることで両立が可能です。
まとめ
人件費の改善は、
「スタッフを減らす」ことではありません。
本質は、
- 売上を正しく予測する
- 必要人数を科学的に算出する
- 仕込み量を最適化する
- オペレーションを改善し働きやすくする
- シフトを戦略的に設計する
このサイクルを回すことです。
適正な人員配置ができる店は、
利益が残るだけでなく、
スタッフの働きやすさも向上し、離職率も下がります。
「人件費を下げる=良い店づくり」
ぜひ今日から取り組んでみてください。



