はじめに
「売上はそこそこあるのに、なぜか利益が残らない……」
そんな悩みを抱える飲食店経営者は本当に多いものです。
原因の大半は “原価率の管理不足” にあります。
原価率とは、売上に対して食材原価がどれだけかかっているかを示す指標で、
飲食店の利益構造の中でも最重要といっても過言ではありません。
本記事では
- 原価率の基本
- 原価改善の3つの柱
- 最重要である差異分析のやり方
- ロス削減の仕組みづくり
- 継続改善のポイント
まで、現場で明日から使えるレベルで体系的に解説します。
1. 原価率とは? 計算式と基本の考え方
原価率の計算式
原価率(%) = 食材原価 ÷ 売上 × 100
例:
- 売上 1,000,000円
- 食材費 350,000円
→ 原価率:35%
業態別の理想原価率
| 業態 | 理想原価率 |
|---|---|
| カフェ・軽食 | 25〜30% |
| 居酒屋 | 30〜35% |
| レストラン | 30〜40% |
| 高級店 | 40〜50% |
重要なのは「低ければ良い」ではなく、
コンセプトと価格帯に合っているか です。
2. 原価率改善の前に確認すべき3つの視点
① 売価設定は適正か?
販売価格は
目標原価率から逆算 して決めるのが基本です。
例:
- 食材原価:300円
- 目標原価率:30%
→ 適正売価:1,000円
値付けは最も強力な改善手段です。
② メニュー別の原価は把握しているか?
総原価率だけを見ても改善点は見えません。
重要なのは “メニュー単位” での原価管理です。
| メニュー | 原価 | 売価 | 原価率 |
|---|---|---|---|
| パスタ | 280円 | 950円 | 29.4% |
| サラダ | 180円 | 700円 | 25.7% |
| ステーキ | 650円 | 1,800円 | 36.1% |
どのメニューが利益を押し下げているかが一目で分かります。
③ 廃棄・ロスは発生していないか?
ロスは表面化しない「隠れ原価」です。
- 仕込みすぎ
- 調理ミス
- 保存不良
- 消費期限切れ
- 売れ残り
ロスが多いと、原価率の改善は永遠に追いつきません。
3. 原価率改善の3つの柱(実践施策)
施策①:仕入れの最適化
- 業者の見積もり比較
- 定期契約・まとめ仕入れで単価ダウン
- 複数メニューで食材を使い回すことでロス削減
ただし、値引き交渉ばかりだと関係悪化のリスクもあります。
発注精度を上げる方が長期的に効果は大きい です。
施策②:メニュー構成の最適化
メニュー全体を俯瞰して“利益設計”することが重要です。
| 区分 | 原価率 | 全体構成比 |
|---|---|---|
| 低原価メニュー | 20〜25% | 30% |
| 標準メニュー | 30〜35% | 50% |
| 高原価メニュー | 40〜50% | 20% |
低原価メニュー(サラダなど)をうまく組み合わせ、
全体の原価率を安定させましょう。
施策③:ロス・廃棄の低減
- 過剰な仕込みをなくす
- 需要予測に基づいた発注
- 冷蔵庫の定位置管理
- ロス食材の活用(限定メニュー・まかない)
ロス削減は即効性があります。
4. 差異分析(原価差異分析)で利益の漏れを可視化する【最重要】
原価改善でもっとも効果が高いのが
差異分析(原価差異分析) です。
4-1. 差異分析とは?
差異分析とは、
理論原価(レシピ上の原価)と
実際原価(棚卸後の原価)のズレを分析し、原因を特定するプロセス
のことです。
これはいわば、
“利益の漏れチェック” を行う作業です。
4-2. 理論原価とは?
レシピ通りに作った場合の「本来の原価」のことです。
例:カルボナーラ
- パスタ:70円
- ベーコン:60円
- 卵:30円
- 生クリーム:40円
- チーズ:50円
→ 理論原価:250円
4-3. 実際原価とは?
棚卸結果と仕入額から算出される
「実際にかかった原価」です。
多くの店舗で、この実際原価が想定より高くなっています。
4-4. 差が生まれる3つの原因と改善策
① 仕入れ単価の変動
原因例
- 野菜の相場上昇
- 業者変更
- 規格・産地の違い
改善策
- 毎月の単価チェック
- 価格改定時の代替提案依頼
- 半年に一度の見直し
② 廃棄・ロス(見えない原価増)
原因例
- 仕込みすぎ
- 保管ミス
- 調理失敗
- 売れ残り
改善策
- ロス日報で可視化
- 需要予測に基づく発注
- 冷蔵庫の定位置管理
- ロス食材活用メニュー
③ 調理ミス・分量誤差(盛りすぎ)
原因例
- 目分量調理
- 盛り付けのばらつき
- 写真映え狙いの過剰トッピング
改善策
- レシピの標準化
- 計量器具の徹底使用
- 基準写真の掲示
- 月次のキッチントレーニング
4-5. 差異分析の具体的な手順
- レシピ登録と理論原価の確定
- 週次〜月次棚卸の実施
- 実際原価の算出
- 差異額(実際原価−理論原価)を計算
- 差異の大きい食材・メニューの特定
- 原因別に改善策を実行
- 翌月の効果測定
このサイクルを回すことで、
“利益が漏れない店” に近づいていきます。
4-6. 差異分析のKPIと頻度
KPI例
- メニュー別原価差異
- 食材別ロス額
- 棚卸誤差率
- 仕入単価の変動率
実施頻度
- 理想:週次
- 最低:月次
主要食材だけの差異分析でも十分効果があります。
4-7. デジタル化のメリット(効率が10倍になる)
- 原価計算の自動化
- 棚卸データの自動集計
- ロス傾向の可視化
- 発注量の適正化
人的ミスが減り、改善のスピードが上がります。
5. 食材ロスを防ぐ仕組みづくり
- 週次棚卸し
- 期限管理のデジタル化
- 過剰在庫を出さない仕込み計画
- ロス食材の活用(限定メニュー)
ロス削減は利益改善の最短ルートです。
6. 原価率改善を継続させるポイント
データ管理を徹底する
売上・仕入・在庫がバラバラだと改善ができません。
一元管理が重要です。
チーム全員で取り組む
- 原価意識の共有
- アルバイトも巻き込んだ改善文化
- 成果が出たらスタッフを評価
システムの活用
原価計算ツールや原価管理サービスを活用すると、
作業時間が大幅に減り、数字の精度も上がります。
7. よくある質問(FAQ)
Q1. 原価率はどれくらいを目安にすべきですか?
結論:業態ごとに異なりますが、一般的には25〜35%が基準です。
- カフェ:25〜30%
- 居酒屋:30〜35%
- レストラン:30〜40%
- 高級店:40〜50%
ただし重要なのは「低ければいい」ではなく、
コンセプト・価格帯・競合環境と整合しているか です。
Q2. 原価率が高くなってしまう最大の原因は何ですか?
結論:ロス・調理誤差・仕入単価変動の3つが中心です。
特に多い原因:
- 仕込みすぎ・売れ残り
- 調理の目分量による過剰盛り
- 単価が変動しているのに気づいていない
- 在庫把握が不十分で“二重仕入れ”が発生
改善には
差異分析(理論原価と実際原価の比較)
が最も効果的です。
Q3. 仕込みすぎを防ぐ方法はありますか?
結論:仕込み量は「売上予測×使用量−在庫」で決めるのが最も安定します。
よくある失敗例:
- 「前日売れたから今日も仕込む」
- 「不安なのでちょっと多め」
- 「新人に任せていたら仕込み過多になった」
改善策:
- 翌日の売上予測を前提にする
- メニュー別の使用量データを使う
- 現在庫を常に把握する
- 人気メニューはあらかじめ厚めに仕込む
数値に基づく仕込み が、ロスを最も減らします。
Q4. 差異分析はどれくらいの頻度でやるべきですか?
結論:理想は週次、最低でも月次です。
頻度が低いと、
- ロスの傾向がつかめない
- 単価変動に気づくのが遅い
- 改善サイクルが遅れる
という問題が起きます。
最低でも月1回、
主要食材(肉・魚・野菜・米・油)の差異だけでも分析すると、
利益改善が大きく前進します。
Q5. 食材のロスをゼロにすることはできますか?
結論:完全ゼロは難しいですが、 “可視化と仕組み化” で大幅に削減できます。
ロス削減に効果が高い施策:
- 週次棚卸で在庫差異を確認
- ロスが出たら理由を必ず記録する
- 冷蔵庫の定位置管理
- 期限管理のデジタル化
- ロス食材の活用(限定メニュー)
ロスは「発生した理由を調べる」だけで
3〜5割程度減少することも珍しくありません。
Q6. 原価率改善は、品質を落としてしまわないか心配です…
結論:正しい改善をすれば、品質を落とす必要は一切ありません。
原価改善とは
「食材を安くする」のではなく、
“ムダをなくす” ことです。
品質を落とすNG改善例:
- 無理な食材の格下げ
- ポーションの極端な減量
- 感覚的すぎる値下げ交渉
品質を落とさない改善例:
- 適正売価の見直し
- ロス削減
- 盛り付けの安定化
- 差異分析でムダの原因を特定
- 仕入の適正化(交渉ではなく精度向上)
むしろ
品質を維持しつつ利益を増やす
方向へ導くことが原価改善の目的です。
Q7. 原価率改善をスタッフにどう伝えれば良いですか?
結論:“数字の話” ではなく “行動と結果” に変換して伝えるのが効果的です。
スタッフに刺さる伝え方:
- 「盛り付けが10g多いと月に○万円のロスになる」
- 「仕込みが増えると人件費も増える」
- 「ロスを減らすと店が利益を出せる → 時給UPや福利厚生に還元できる」
数字をそのまま伝えるより、
行動が結果にどうつながるか を説明すると浸透します。
Q8. 原価管理を効率化する方法はありますか?
結論:デジタル化が最も効果的です。
効率化できるポイント:
- レシピ登録
- 理論原価の自動計算
- 発注量の自動算出
- 棚卸データのスマホ入力
- 仕入単価の自動比較
- メニュー別原価差異の自動集計
原価管理はアナログで行うと月10〜20時間かかりますが、
システム導入で 1/5〜1/10 に短縮できます。
まとめ
原価率改善は 節約ではなく経営改善そのもの です。
- 適正売価の設計
- メニュー別原価の把握
- ロス削減
- 差異分析の徹底
- データ活用と継続改善
このサイクルを回すことで、
ムダのない利益体質の店舗を作りましょう。

