はじめに|なぜ売上が落ちると一気に苦しくなるのか
「売上はそこそこあるのに、なぜか余裕がない」
「忙しいのに、月末になると資金が不安になる」
こうした悩みの原因は、
固定費が“高い”からではありません。
多くの場合、
固定費が下がらない構造のまま経営していること が原因です。
固定費は、売上が増えても減っても、
毎月ほぼ同じ金額が出ていくお金 です。
そのため、売上が少し落ちただけでも
利益とキャッシュフローを一気に圧迫します。
この記事では、
- 固定費とは何か
- なぜ「重く感じる」のか
- 削れる固定費と、削れない固定費の違い
- 固定費に手を出す前に考えるべきこと
を、できるだけ分かりやすく整理します。
1. 固定費とは何か?(変動費との違い)
まず前提として、
飲食店のコストは大きく2種類に分かれます。
固定費
売上に関係なく、毎月ほぼ必ず発生する費用。
- 家賃・共益費
- 設備リース・減価償却
- 借入返済
- 最低限の水道光熱費
- システム・サブスク費用
変動費
売上に応じて増減する費用。
- 食材原価
- 人件費(シフト調整可能な部分)
- 包材・消耗品
固定費の特徴はひとつだけです。
「売上が下がっても、勝手には下がらない」
これが、飲食店経営を苦しくする最大の要因です。
2. 固定費が「重く感じる」本当の理由
固定費が問題になるとき、
実は「金額そのもの」が原因ではないことがほとんどです。
理由① 売上とのバランスで見ていない
例:
- 家賃:50万円
売上が
- 500万円 → 家賃比率 10%
- 350万円 → 家賃比率 14%
売上が落ちただけで、固定費は一気に重く見える ようになります。
理由② 利益構造全体で考えていない
固定費だけを見て
「高い」「下げたい」と考えても、
実は原因は別のところにあることも多いです。
- 原価が高すぎる
- 人件費が売上に連動していない
- ロスが多い
こうした状態だと、
固定費が悪者に見えてしまう のです。
理由③ 開業時の前提がそのまま残っている
- 売上が伸びる前提で家賃を決めた
- 席数・設備を最大想定で作った
- 忙しさを前提に人員・動線を組んだ
この前提が崩れた瞬間、
固定費は「逃げ場のない重荷」になります。
3. 削れる固定費と、削れない固定費
固定費は、すべて削れるわけではありません。
ここを分けて考えることが非常に重要です。
短期的に削れない固定費
- 家賃(契約期間中)
- 借入返済
- 必須設備のリース
→ 「原価・人件費・運用設計」で支えられる構造を作ることが重要になります。
見直し余地がある固定費とは何か?
固定費の見直しというと、
「家賃を下げる」「人を減らす」といった
大きくて難しい話 をイメージしがちです。
しかし実際には、多くの飲食店で
“気づかないうちに固定化しているコスト” が
じわじわと利益を圧迫しています。
ここでいう「見直し余地がある固定費」とは、
次のような特徴を持つコストです。
- 毎月必ず発生している
- 売上が下がっても減らない
- 当初の想定と今の店舗状況がズレている
- 「仕方ないもの」として放置されている
重要なのは、
これらは必ずしも 「削減すべき無駄」ではない という点です。
多くの場合、必要以上に重くなっている原因は
- 店舗規模に対して大きすぎる
- 運用方法が今の売上に合っていない
- 導入時の前提条件が変わっている
といった 設計のズレ にあります。
そのため、固定費改善で大切なのは
「とにかく削る」ことではなく、
今の売上・利益構造に合わせて
使い方や設計を見直し、軽くすること
です。
次の章では、
実際に多くの飲食店で見直し余地が大きい固定費と、
削減ではなく「設計変更」で改善する具体例 を見ていきます。
① 使っていないサブスク(気づかない固定費)
最も見直しやすく、かつ効果が出やすい固定費が
サブスクリプション型のサービス です。
サブスクの怖い点は、
- 金額が小さいため見逃されやすい
- 毎月自動で引き落とされる
- 「一度入れたらそのまま」になりやすい
という特徴があることです。
その結果、
使っていないのに毎月お金だけが出ていく固定費 になりがちです。
よくある見直し対象のサブスク例
以下は、飲食店で特に多いケースです。
- ほとんど使っていない予約管理ツール
- 機能を活用できていないPOSオプション
- 開業時に入れたままの販促・分析ツール
- 有料の写真・デザイン・素材サービス
- 複数重複しているクラウドサービス
1つ1つは数千円〜1万円程度でも、
積み重なると 年間で数十万円 になることも珍しくありません。
見直しの考え方(削減ではなく設計変更)
サブスク改善のポイントは、
「必要か不要か」で判断することではありません。
次の3つの質問で考えてみてください。
- 今月、このサービスを使って意思決定をしたか?
- これがなくなると、現場や売上に本当に影響が出るか?
- 同じ目的を、もっと安く・簡単に代替できないか?
この問いに 明確にYESと答えられないもの は、
一度止めるか、プランを下げる余地があります。
よくある改善パターン
- 上位プラン → 最低限プランに変更
- 複数ツール → 1つに集約
- 有料ツール → 無料ツール+運用ルールで代替
- 月額契約 → 必要な月だけスポット利用
重要なのは、
「解約=後戻りできない決断」ではない ということです。
多くのサービスは、
必要になれば いつでも再開 できます。
まずやるべきアクション
- 直近3か月の口座・カード明細を確認
- 月額・年額の引き落としをすべて書き出す
- 「最近使ったか?」を基準に仕分けする
これだけで、
すぐに軽くできる固定費 が必ず見つかります。
次は、
「② 過剰な設備・機器が固定費を重くする理由」
について見ていきましょう。
② 過剰な設備・機器(使い切れていない固定費)
次に見直したいのが、
「あることが当たり前」になっている設備・機器 です。
設備は一度導入すると、
- もう戻せない気がする
- もったいなくて止めづらい
- 毎月の支払いを意識しなくなる
という理由で、
使い切れていないまま固定費化 しやすい項目です。
よくある「過剰設備」の例
飲食店で特に多いのは、次のようなケースです。
- ピーク想定で入れた大型冷蔵庫・冷凍庫
- 実際には使っていない厨房機器(フライヤー・オーブンなど)
- 席数に対して過剰な食洗機・製氷機
- 高機能すぎるPOS・キッチンディスプレイ
- リース中だが使用頻度の低い機器
問題なのは、
「使っていないこと」そのものではなく、
それが毎月の固定支出になっていること です。
過剰設備が利益を圧迫する理由
設備・機器は、次のような形で
じわじわ利益を削っていきます。
- リース代・分割払い
- 電気代・ガス代の増加
- メンテナンス・修理費
- 設置スペースによる動線悪化
つまり、
1台の機器が複数の固定費を生む構造 になっています。
見直しの考え方(「減らす」ではなく「合わせる」)
ここで大切なのは、
「設備を減らす」ではなく、
今の売上規模・客数・回転に
本当に合っているか?
という視点です。
次の問いを自分に投げてみてください。
- この機器は「毎日」使っているか?
- 忙しい時間帯以外でも必要か?
- 代替手段(仕込み・外注・オペ変更)はないか?
- 今の売上規模でも同じ性能が必要か?
YESが少ない設備は、
設計を変える余地がある固定費 です。
よくある改善パターン
- 大型機器 → 小型機器に入れ替え
- リース継続 → 買取 or 解約検討
- 常設 → 繁忙期のみスポット対応
- 内製 → 一部外注で負担軽減
特に、
「忙しい時のためだけに常に抱えている設備」
は見直し効果が大きくなりやすいポイントです。
設備見直しの第一歩
いきなり処分を考える必要はありません。
まずは、
- 機器ごとに「使用頻度」を書き出す
- 月額コスト(支払い+光熱)を把握する
- 売上が落ちた月でも必要かを考える
これだけで、
「本当は重い固定費」 が見えてきます。
次は、
「③ 営業時間が長すぎることによる固定化コスト」
について見ていきましょう。
③ 営業時間が長すぎることによる固定化コスト
固定費が重くなる原因として、
意外と見落とされがちなのが「営業時間の長さ」 です。
営業時間そのものは一見「変動要素」に見えますが、
実際には多くのコストを 固定化 してしまいます。
営業時間が長いと固定化されるコスト
営業時間を長くすると、次の費用が連動して増えます。
- 人件費(最低人数を常に配置)
- 水道光熱費(空調・照明・厨房)
- 清掃・仕込み時間の増加
- 管理・発注・締め作業の負担
特に注意したいのは、
売上が少ない時間帯でも、同じコストが発生している ことです。
よくある「長すぎる営業時間」の例
- 昼は暇だが、仕込みと人件費だけ発生している
- 深夜帯は売上が少ないのに、2名体制を維持している
- 通し営業だが、14〜17時がほぼ空いている
- 定休日を作らず、疲弊と人件費が増えている
このような時間帯は、
「売上を取りに行っている」のではなく
「コストを垂れ流している」状態 になりやすいです。
見直しの視点は「売上」ではなく「粗利」
営業時間を判断するときに、
「売上があるかどうか」だけで考えるのは危険です。
重要なのは、
その時間帯に、粗利がどれだけ残っているか?
という視点です。
例:
- 売上:3万円
- 原価:1万円
- 人件費:1.8万円
- 光熱費など:0.5万円
→ 粗利ほぼゼロ、もしくは赤字
この時間帯を続ける意味は、
ほとんどありません。
営業時間を見直すときの具体的アプローチ
いきなり「短縮する」必要はありません。
次のような調整から始めるのが現実的です。
- 平日のみランチを休止する
- 閑散時間帯は1オペに切り替える
- 仕込みをまとめて行い、拘束時間を短縮
- 深夜営業を曜日限定にする
- テイクアウト・予約制に切り替える
ポイントは、
売上の少ない時間帯に「固定の人と設備」を置かないこと です。
営業時間見直しで得られる効果
営業時間を適正化すると、次の効果が出やすくなります。
- 人件費率の改善
- スタッフの定着率向上
- オペレーションの安定
- 疲労・ミスの減少
- 利益率の底上げ
つまり、
コスト削減+現場改善を同時に実現できる施策 です。
チェックポイント
次の質問に答えてみてください。
- 売上が少ない時間帯を把握している?
- その時間帯の粗利を計算したことがある?
- 「昔からこうだから」で続けていない?
YESが少ない場合、
営業時間は見直す価値が高い固定費 です。
次は、
④ 非効率な動線による人件費固定化
について見ていきます。
④ 非効率な動線による人件費固定化
固定費が重くなる原因は、
必ずしも「人を多く雇っていること」だけではありません。
実は多くの飲食店で、
動線の悪さが人件費を固定化している ケースが非常に多く見られます。
※ 大きな改装を前提にした話ではありません。
動線が悪いと、なぜ人件費が増えるのか?
動線が非効率だと、次のような現象が起こります。
- スタッフが常にバタバタ動いている
- 作業に時間がかかり、人数を減らせない
- 忙しい時間帯と暇な時間帯の差が大きい
- 「念のため」で人を多めに配置してしまう
結果として、
本来なら不要な1人分の人件費が、常に固定費化する
という状態になります。
よくある「非効率な動線」の例
次のような配置は要注意です。
- 冷蔵庫と調理台が離れすぎている
- ドリンク作成場所がホールの奥にある
- POSレジが遠く、会計に時間がかかる
- 仕込み場と営業スペースの行き来が多い
- 1人で完結できない作業が多い
これらはすべて、
「人を増やさないと回らない構造」
を生み出します。
動線が悪い店の特徴的なサイン
次のサインが多いほど、
動線によって人件費が固定化している可能性があります。
- 忙しくないのに疲労感が強い
- ベテランがいないと回らない
- ピーク時は常にギリギリ
- 新人が定着しない
- 「もう1人いれば楽なのに」と感じる場面が多い
これは、
人の問題ではなく「設計の問題」 です。
動線改善は「人を減らす」ためではない
動線改善の目的は、
単にスタッフ数を減らすことではありません。
本当の目的は、
- 少ない人数でも安定して回る
- 繁忙時と閑散時の差を小さくする
- 教育コストを下げる
ことです。
結果として、
人件費率が自然に下がる という効果が生まれます。
すぐにできる動線見直しポイント
大掛かりな改装は不要です。
次のような小さな改善から始められます。
- 使用頻度の高い物を「手の届く範囲」に集約
- ドリンク・会計・配膳の動線を短くする
- 仕込み動線と営業動線を分ける
- 作業を「1人で完結できる形」に再設計
- 無駄な往復が発生している場所を記録する
1日の無駄な動きが10分減るだけで、
月の人件費は数万円単位で改善 することもあります。
動線改善で得られる効果
動線を見直すことで、次の効果が期待できます。
- 必要人数の減少
- ピーク時の安定運営
- ミス・クレームの減少
- 教育時間の短縮
- スタッフ満足度の向上
つまり、
人件費・品質・現場負担を同時に改善できる施策
です。
チェックポイント
次の質問に答えてみてください。
- 同じ作業で何度も同じ場所を往復していない?
- 「この作業、1人でできないな」と感じる場面が多い?
- ベテラン前提の動きになっていない?
YESが多い場合、
動線が人件費を固定化している可能性が高い と言えます。
ここまでで、
「見直し余地がある固定費」 の代表例を整理しました。
次は、
これらをどう組み合わせて
利益改善につなげるか(優先順位と考え方)
を整理していきましょう。
4. 固定費で詰まりやすい典型パターン
パターン① 売上前提が高すぎた
「最初は伸びるはず」という想定のまま、
家賃・設備・人員を決めてしまったケース。
パターン② 忙しさ=正解だと思っている
- 営業時間が長い
- 席数が多い
- 常にフル仕込み
結果、
利益率が低いまま固定費だけが残る 状態になります。
パターン③ 固定費を単体でしか見ていない
「家賃が高い」「設備が重い」と感じても、
本当の原因は 原価や人件費 にあることも少なくありません。
5. 固定費に手を出す前に、必ずやるべきこと
固定費をどうにかしたいと感じたとき、
最初にやるべきことは「削減」ではありません。
やるべきこと① 利益構造全体を整理する
- 原価
- 人件費
- 固定費
この3つのバランスを整理することで、
「本当に重いのはどこか」が見えてきます。
👉 全体像を整理したい方はこちら
飲食店の利益構造・経営改善の完全ガイド
やるべきこと② 手を動かせるところから改善する
固定費が原因に見えても、
実際には 原価や人件費の改善で余裕が生まれる ことも多いです。
👉 具体的な始め方はこちら
数字が苦手でもできる|飲食店の利益改善の始め方
まとめ|固定費は「下げるもの」ではなく「設計するもの」
固定費は、
気合や努力ではどうにもなりません。
重要なのは、
- 売上とのバランス
- 利益構造全体
- 開業時の前提
を冷静に見直すことです。
固定費が重いと感じたときは、
「削る」より先に
なぜ下がらない構造になっているのか を考えてみてください。
そこに、利益改善の本当の入口があります。
次の一手に迷っている方は、 今の悩みに近いところから読み進めてください。
-
固定費以外も含めて全体像を整理したい方
👉 飲食店の利益構造・経営改善の完全ガイド -
何から手をつければいいか分からない方
👉 数字が苦手でもできる|飲食店の利益改善の始め方



